2019/04/17 19:59



 “Small Island Big Song”のディレクターTimとプロデューサーBaoBaoの二人と最初に出会ったのは、2015年10月、ハンガリーの首都ブダペストで開催された「WOMEX(the World Music Expo)」の会場でした。そのとき、私たちは”Music from Okinawa”としてスタンド出展していて、沖縄の音楽のプロモーションを行っていました。二人はそこを訪ねてくれたと記憶しています。
 思えば、あのときの彼らは、これから始まる壮大な旅の出発を目前に控えていたわけです。ブダペストでは、その壮大なビジョンを話してくれました。小さな島々を歌でつないでいくという作業は、とても魅力的なものに思えました。
 プロデューサーのBaoBaoは、台湾の出身です。当然、彼らのプロジェクトには台湾も含まれていました。同じく豊かな音楽に彩られた隣の島・沖縄も、何らかの関わりを持てればいいなぁと漠然と思いました。

 それから3年間、一年に一度、WOMEXの会場で二人と会いました。昨年は、スペインのカナリア諸島で話をしました。”Small Island Big Song”のプロジェクトは、すでにヨーロッパの幾つかのワールドミュージックのフェスティバルで公演が行われていて、各方面で大評判となっていました。撮影とアルバムに参加したアーティストがステージ上で、それぞれの歌を披露し、コラボレーションをすることで、二人のビジョンを形にしていたのです。
 カナリア諸島で、映像を見せてもらい話をした時、「2〜3年の間には沖縄で公演が実現できるといいなぁ」と、特に根拠もなく話をしました。

 WOMEXから戻って、何度かBaoBaoとコンタクトをとりました。そのやり取りの中で、映像を沖縄国際映画祭で上映できないかなぁと、ぼんやりと考えました。映像の上映が、公演に向けたきっかけになるかもしれないと考えたのです。映画祭の担当の方に話をすると、話は意外とスムーズに進みました。立川直樹さんとピーター・バラカンさんを招いて「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」を上映しようと考えているということで、「うまくハマるかも」という話でした。そうしたで縁がつながって、2019年4月、沖縄国際映画祭で”Small Island Big Song”を上映してもらえることになりました。
 公演は世界各地で行われていたので、映画上映も何度も行われているものだと思っていました。ところが、よくよく聞くと、沖縄での上映がワールド・プレミアとのことでした。これも何かの縁なのかもしれません。



 ”Small Island Big Song”には、それぞれのフィールドで録音された音源があり、土地を背景にした美しい映像が残されていて、島に生きる歌い手たちが実際にその音楽を披露することもできる。それぞれの島の音楽が、まるで一つの糸でつながっているように聴こえます。
 「ソングライン」という言葉があります。オーストラリアのアボリジニが創り上げてきた目に見えない道のことです。彼らは、出会うものを歌にしながら旅をしたといいます。”Small Island Big Song”では、TimとBaoBaoの旅が、美しくしなやかなソングラインを紡いでいるのです。Timはオーストラリアの出身でした。もしかすると、実際にそういう背景もあるのかもしれません。

 カメラは、太平洋。インド洋のさまざまな島の音楽を追っていきます。マダガスカル、イースター島、タヒチ、ニュージーランド、オーストラリア・トレス海峡、マレーシア・ボルネオ島、台湾…。豊かな海洋文化に育まれた土地に息づく音楽は、今も人々の暮らしの中にあって、強力な磁力で、スクリーンに釘付けにします。島々の美しく力強い自然の中で撮影された映像からは、彼らが歌う音楽の背景が透けて見えてきます。
 映画を見て、アルバムを聴くと、改めて、沖縄にも”Small Island Big Song”があったということに気づかされます。小さな島々で、人々が歌い継ぐ土地の音楽。第2弾が撮影されることがあれば、ぜひその候補に沖縄も入れて欲しいところです。



 沖縄国際映画祭での上映を機に、”Small Island Big Song”のビジュアル・アルバムを日本でも沖縄発で発売することになりました。Timのマニフェストにもあるように、土地土地に連なる音楽が、できる限り自然の状態で録音されています。パッケージにも強いこだわりがあります。純利益の半分はアーティストとNGOに還元されることになっています。マイクロ・プラスティックの問題などで、世界の海が危機に瀕する中、二人は島々の音楽を通して、少しでも持続可能な仕組みを作り出そうとしています。
 今回、沖縄発で、このアルバムをリリースすることで、こうした動きが少しでも広がるお手伝いができればと考えています。さらに、”Small Island Big Song”の沖縄での公演に繋がっていけばと考えています。

野田隆司(Music from Okinawaプロデューサー)

◎CDの購入はこちらから