2017/08/19 20:27

◎element of the moment「OKINAWAN NIGHTS」

 プロダクション・ノート


人としての生き方、音楽家としての意思、

瞬間のひらめき、沖縄という磁場。

沖縄のジャズは新たなステージへ。


 戦後アメリカ施政権下で始まった沖縄のジャズは、現在に至るまで独自の歩みを続けてきた。
 当初もてはやされたのはビッグバンド・ジャズ。米軍の将校クラブ連夜繰り広げられたダンスパーティー用のバンドとして、多くのミュージシャンたちが基地の中での演奏の仕事についた。需要はあまりに大きく、フィリピンから沖縄にやってきた腕利きのミュージシャンもいれば、楽器の弾けない高校生が、楽器だけを手に、“カカシ”としてアルバイトでステージに立つこともあった。
 そこで演奏されたのはグレン・ミラーを始めとするスタンダード。譜面通りの演奏の中で、演奏技術は鍛えられたが、ミュージシャンがソロパートを挟むことは許されなかったという。将校クラブでの仕事を終えたミュージシャンたちは、深夜のジャズクラブに繰り出してセッションを重ねながらソロの腕を磨いていったのだ。

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 element of the moment(エレモ)が、沖縄のジャズのシーンに登場したのは2009年のこと。かつての沖縄のジャズの遺伝子をベースに、オリジナルのみという、まったく新しい試みをスタートさせた。当時の彼らのホームグラウンドは、那覇市の国際通りの一本裏手にあったライブハウス“グリーンアンツ”。毎週金曜日、エレモのレギュラー出演日になると、多くの観客が詰めかけた。
 演奏されるのは、すべてオリジナルのジャズ。ほぼ毎週、幾つかの新曲が披露された。沖縄でオリジナルのジャズで客を呼べるグループが珍しいということは、今もあまり変わらない。その頃からエレモの緻密に構成された楽曲は、どれもが美しく、完成度が高かった。安易に個人技に流れないグループとしてのパフォーマンスのクオリティも素晴らしかった。
 element of the momentというグループ名を直訳すると、瞬間の要素。本場ニューヨークのブロードウェイで「コーラスライン」、「RENT」などの舞台に立った沖縄出身の高良結香による命名だ。瞬間の積み重ねとも言えるジャズの本質を言い表している。
 楽曲の中に巧みに織り込まれたソロのパートでは、メンバーそれぞれの個性があふれ出し、エレモは週末の那覇の夜を熱く焦がし続けた。

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 element of the momentの新しいアルバムを作ろうと、中村亮と話したのは、2016年夏、熱帯夜の那覇の安酒場でのことだった。その時に、互いの共通の認識としてあったのは、強いオリジナリティを持った、沖縄の新しいジャズを広く発信したいということ。
 2009年の登場から7年を経て、エレモは何度かのメンバーチェンジを行った。今ではメンバーそれぞれが、独自に活動を重ね、より強靭な音楽的筋力を蓄えて、さらにもう一段階上のステージに立っている。

 2017年2月24日と25日、国際通りのビルの3FにあるSound M’sは、かつてのグリーンアンツのような熱い期待感に包まれた。ライブ・レコーディングに集まった満員のお客さんからは、自然と高揚感がにじみ出た。
 レコーディングは当初からライブ録音と決めていた。グループとしてのアンサンブルの完成度の高さと、何が出てくるかわからない即興のスリリングさ、そして沖縄の夜の空気感も、その音に溶かし込みたかったのだ。アルバムタイトルの「OKINAWAN NIGHTS(オキナワン・ナイト)には、そうした想いが反映されている。

 ライブは、基本1セット5曲ずつを2セット。2日間で曲目は微妙に異なった。事前に客席のテーブルに置かれたセットリストには、それぞれの楽曲に、一言惹句が添えられていた。
 例えば、初日のセット。
1. Prayer's Dance 雨乞いの踊り
2. a Girl in Blue 青いワンピースの女の子
3. There | Here 向こう、ここ
4. Moon and Darkness 月と暗闇(首里城の上)
5.Nina's (映画「ブラックスワン」の主人公)ニーナへ捧ぐ曲
6. Okinawan Like 沖縄の人々のように
7. pure 親子の絆
8. Through you 新たな経験への喜び
9. World keep spinning それでも明日はやってくる!! 
10. an Ordinary Happy Day 普通の幸せな1日 2007
EN. getting home 街へ帰る

 それぞれの曲に添えられた一言は、楽曲の扉を開く鍵だ。タイトなリズムと温もりのあるメロディーに重なって、楽曲のイメージや物語をより豊かで鮮やかなものにしてくれる。
 「There | Here」でのドラムのアタックの心地よさ。一本の映画の物語に寄り添うように綴られる「Nina’s」。「Okinawan Like」でのトロンボーンとサックスのドラマティックなユニゾン。「Through you」で繰り出されるフレーズの面白さ。「World keep spinning」での美しく長いトロンボーンソロ。クライマックに向かうサックスソロの高揚感。「getting home」でのピアノトリオの美しさ。
 5人が奏でる音楽を聴きながら、譜面の上の音楽を、どのように解釈して響かせるのか、音楽のオリジナリティが生まれる場所がどこにあるのか想いを巡らせた。人としての生き方と音楽家としての強い意思、瞬間のひらめき、そして沖縄という磁場。5人それぞれのelementが、相互に反応して緩やかに大きな円環を描いていくようだった。
 “New Okinawan Jazz Attitude”。
 element of the momentは、沖縄のジャズの新たなぺージを開く、光となるに違いない。そこには沖縄のジャズの明日がある。

野田隆司 / Ryuji Noda
Music from Okinawa

element of the moment「OKINAWAN NIGHTS」
エレメント・オブ・ザ・モーメント「オキナワン・ナイト」
2017年9月10日(日)発売!
収録楽曲
1. Okinawan Like
2. There | Here
3. a Girl in Blue
4. a Moon and Darkness
5. Nina’s
6. Through You
7. World Keep Spinning
8. An Ordinary Happy Day

Sax :Tadashi Kohamoto / 小波本 正
Trombone : Mitshuhiro Wada / 和田充弘
Piano: Kota Sayama / 佐山こうた
Bass: Hideki Takao / 高尾英樹
Drum & Composer : Akira Nakamura / 中村 亮

2017年2月24日-25日、沖縄県那覇市Sound M’sでのライブレコーディング
Music from Okinawa/MfO-007
税抜2,000円(税込2,160円)
JANコード4573351900078